樹海の中にあるイズァローンの國には、二人の王子がいた。前王で、現王の兄の子、ルキシュと、現王の子、ティオキア。本來なら、現王の子ティオキアが王位継承者のはずだったのだが、王子ティオキアは両性體だった。
イズァローンの國の子供は、生まれた時は両性體で、六、七歳の時、女性か男性かに変化する。ところが、少年期になっても変化しないものがまれにいた。ティオキア王子もその一人だったのだが、そのために後継者が定まらず、城の中で小競り合いの種になっていた。しかも、ルキシュ王子は活発な王子だったが、ティオキアは優しげで、森の奧深く、花を愛し、獣を愛する王子だったのだ。
ところがある日、王はティオキアを隣國イシュカへ人質に出すことにした。學士のアウス・レーゼンや、両性體の三十人の共を連れ、ユーディカら、総勢三十人の共を連れ、ティオキアは故國を旅立った。隣國での人質である彼らは、イシュカを恐れたが、文化程度の高いイシュカは王子ティオキア一行を歓待してくれたのだった。
そのイシュカで、ティオキアは導師に魔法を習うことになる。そこでティオキアは、母も導師の一人だったことを知り、またティオキア自身も、恐ろしい早さで魔法を習熟していく。
ところが折も折、父イズァローン王は、イシュカ攻撃を始めてしまった。ティオキア一向は幽閉されることになる。しかし歓待してくれた王族を救おうとティオキアはイシュカ王族の元へ魔法を使って出向いた。王族に父に命乞いすることを申し出るが、王は固辭、最後に、ティオキアに戀するリスレルを託すのみで、全員自ら命を絶った。
リスレルを連れて逃げ出したティオキアだったが、リスレルはイズァローン軍の兵に射殺されてしまう。ティオキアは魔法を使ってその兵を探して殺してしまう。そこに導師がかけつけ、見方の兵を殺したばかりに立場の悪くなったティオキアを連れ去った。
ティオキアの耳に、母がきかせてくれた子守唄が蘇る。地下にあるアッハ・イシュカに行けという聲と共に地下に入り、彼は導師やアウス・レーゼンと共に、その地下をさまようことになるのだ。
一方、イシュカを攻めた後、イズァローン王はゼベク遠征で命を落とす。
実子ティオキアはイシュカで遺體が上がらず消息不明のまま。闘いの最中に王が死んだ今、イズァローン軍はルキシュが率いねばならなくなった。王の変わりを勤め上げたルキシュはそのまま王位を継承、イズァローン王となる。執筆者・咲花圭良
さて、イシュカの國から地下をたどって逃げ出たティオキア、導師、アウス・レーゼンだったが、ティオキアの中で「変化」が起き始めていた。行商、賭博、必要とあらば殺人まで、何でもやってのける陽気で大膽な少年の人格と、元のティオキアの、二つの人格が同居してしまうことになったのだ。
「次の世界を擔う者」としての運命を背負ったティオキアは、こうして、「もう一人の己」と闘いながら、旅を続けることになる。